心の色
そんな日々が続いていましたが、
この日は、違いました。
部屋の窓の向こうのアパートに、
女性が一人引っ越してきました。
その部屋の窓は、二階にある、
タケシの部屋の窓の向かい側、
五メートル程距離を置いた所にあります。
よく、窓から外を眺めるタケシには、
まずその向かいの窓が目に入り、
人が引っ越してきた事にもすぐに気付きました。
見るところ、二十代の若い女性です。
年頃のタケシにとって、
気にならないと言ったら嘘になります。
 この日もまた、両肘を付き、
ボーッと向かい側の窓を見つめていました。

“あの人、何歳かな~、もっと、よく顔を見てみたいな~”

そんな事を考えていました。
その時です。
タケシは瞬時に、窓の下に身を隠しました。
その子が、窓際に立ち、
こっちを見ているのです。
タケシは、そーっと、顔を上げ、
窓の外を見ると、
まだ、その子はこちらを見ていました。
「あっ、やべ。」
その子と顔を見合せたのは、
これが初めてでした。
また、とっさにタケシは身を隠しました。
しばらくの間、
肩まである長い髪に白い肌の和風美人である、
その子の顔が頭に焼きついて離れませんでした。
タケシは、その子に一目惚れしてしまったのです。
 それからというもの、
タケシは、その子の部屋の見える窓を開けっ放しにする事が、
俄然多くなっていました。

「いるかな、いるかな?あの子…。」

 そんなある日、
部屋でテレビを観ているタケシの足もとに、
紙ヒコーキが落ちました。
どこから飛んできたのか?
それは開けていた窓から入って飛んできたとしか考えられません。
タケシが手に取ると、
白い紙ヒコーキに文字が書かれているのが分かりました。
タケシは、紙を広げました。

“あなたが窓から私を見ている。
あなたの優しい黄色い風を感じます”

タケシは一瞬、窓から出来るだけ離れました。
向かいの部屋の窓からあの女性が
、こちらの窓に向かって投げて来たに違いありません。
タケシが普段見ている事が、
その女性にバレていたのです。
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