秘密の誘惑
「ありがとうございました」


車から降りた萌は丁寧すぎるほどの言葉とお辞儀をした。


腹が立っていた。


ずっと電話をしていた事に。


電話が切れたのはブレーキが踏まれる寸前。


車が停まると萌はすぐさまドアを開けて降りドアを閉めた。


そしてぐるっと回って開こうとしたドアの前に立つと礼を言ったのだ。



「玄関まで送るよ」


ディーンがいぶかしげに萌を見て言った。


ディーンの常識では女の子を送るという事はしっかり玄関まで送り届けるという事だ。


さっさと車を降りて逃げるような萌を見て不思議だった。


「結構です　送ってくださってありがとうございました　おやすみなさい」


萌はかぶりを振るともう一度頭を下げて通用門の中にそそくさと入った。


急にとげとげしくなった萌が通用門に消えると、ディーンは肩をすくめ朝倉ホテルへ行くよう運転手に告げた。


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