秘密の誘惑
萌は下唇を噛んで涙を流すまいと堪えた。


泣いても仕方がない。



ここを離れてタクシーを探そう。



治安の悪い場所を彷徨うのは足がすくんで一歩も動けないくらいに怖いがここにずっといるのもそれ以上に怖い。



後ろは墓地なのだ。



暗がりでも墓石が見えておどおどろしい。



「っ!・・・・・・」


胃が痛みを訴えている。



手で擦りながら辺りに気をつけながら歩き始めた。



* * * * * *



リムジンの座席でシャンパンを飲みながらタマラは光る携帯電話を眺めていた。



「ディーンたらしつこいわね」



自分の携帯電話の呼び出しが止ると、次は萌のバッグからブルブルと振動が伝わってきた。



タマラはゆっくりとバッグを開けると萌の携帯電話を見た。



そこにはディーンの名前が浮かび上がっている。



「ばれたのね ふふっ」



萌の命を危険にさらした自分は一生許してもらえないだろう。



ほとぼりが冷めるまでスペインへこれから向かう。


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