純情恋心
『……別れ話とか、そんな不吉な事言わないでよ……。なんかそれ那智らしくないし、しかも別れるのとか有り得ないでしょう』
「……どうして? どうして有り得ないだなんて思うの……?」
俯くあたしを、千歳は元気付けようとしてくれたのかな……。
“別れるのとか有り得ないでしょう”
千歳がそう言うから、あたしはゆっくりと顔を上げた。
『どうして、って……だってあんた、気付いてない訳?』
「……何に?」
千歳の言っている意味がわからなくて、あたしは小首をかしげる。
それを見た千歳は、ひとつ大きなため息をついた。
『あー……那智ってば相当鈍いわねっ、あんなに大切にされてたのに気付いてない訳!?』
バンッと音をたてて机を叩くと、千歳はそのまま身を乗り出してあたしに顔を近付けた。
『那智はその鈍さが欠点なのよ! 今まで呆れられたりしなかった!?』
「え、……っ……」
責め立てられて、あたしはたじろぎながらも自分を振り返ってみる。
言われてみれば、確かにあたしは幾度となく高遠先輩に小さく笑われていた。
それはあたしに呆れたような、けれどどこか優しい苦笑いで……。
“どうして君はいつもそうなのかな……”
あたしの曖昧さに、高遠先輩はそう言って困ったように笑った。
「……あたし、いつも困らせる事ばかりしてた……」
困るとすぐに俯くあたしは、高遠先輩の気持ちなんて考えていなかった。
「呆れたように笑われて、それでも先輩は優しくしてくれてた……っ」
――気付かなかった……。
必死に高遠先輩を想い続けていて、あたしは一番大切な事に気付きもしなかった。
“大切だから、さよなら”
頭に血がのぼっていたせいか、あたしは高遠先輩のその言葉を聞き逃していた。