純情恋心

『……本当について来たんだ?』

あたしの姿を確認した高遠先輩は、下駄箱にもたれ掛かって小さくそう呟いた。

「っ……だって、ついて来ればいいって言ったのは、先輩じゃないですか……っ」

『それはたしかにそうだけど……』

「それに! ……先輩だって、ここで待っていてくれたじゃないですか……」

本当について来て欲しくないと思うのなら、こうして待っていてくれるはずがない。

目を合わせられないままあたしがそう言うと、高遠先輩はフイッとあたしから顔を背けた。

「……あ、あの、先ぱい……」

『帰るよ、……それで? ついて来たって事は話があるんだろう、何?』

顔を背けたまま淡々とそう問いかけてくる高遠先輩に、あたしは少し言葉につまった。

言いたい事、聞きたい事はたくさんあるのに、いざとなると言葉にならない。

どう切り出せばいいのかと悩みながら、あたしは高遠先輩の背中を追う。

遅くもなく速くもない高遠先輩の歩みは、あたしへの気持ちを表しているようにも感じて……。

本気であたしを突き離すのなら、少しでも優しさを見せないで欲しい。

残酷に、はっきりと伝えてくれたらいいのに。

今だって、あたしを置いて足早に帰ってしまえばいいのに……どうして歩幅を合わせてくれているの……?

しばらくした後、不意に立ち止まった高遠先輩が小さく言葉を漏らした。

『……どうして那智はさ、俺を好きだと思うの?』

顔だけをあたしの方に向け、視線を落とした表情に問いかけられる答え。

あまりに突然すぎて、あたしは高遠先輩を見つめたまま、しばらく口を開けなかった。

日が落ちかけている空は、冷たい風を吹かせて沈黙を引き立てる……。

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