純情恋心
「どうしてそんな事言うんですか……!? 先輩はずるいです……っ、あたしはこんなに、何度も伝えてるのに……っ……」
一向に信じてくれない。
何度傷付けられても変わらなかったあたしのこの想いに、嘘はないって、どうして信じてくれないの……?
頬に伝う雫を拭う事なく俯くあたしに、高遠先輩は何も言わないまま、そっと、あたしの肩に添えていた手を離した。
そして一歩さがってあたしと距離をとるから、あたしの瞳はさらに潤む。
だめなんだ……、いくら伝えても叶わない……。
あたしの想いは、信じてもらえないんだ……っ
「っ、……っ、ぅ、……」
あたしは嗚咽を堪えるように、唇をギュッと噛み締めた。
本当はこの際、想いが叶わなくてもいいと思った。
いつか叶うと信じ続ける事も悪くはないと、今はただ傍にいられるのなら、それで構わないと……そう、思っていたのに。
貴方はそれさえ、させてくれないんですね……。
「……っ……、ひっ……」
咽び泣くあたしを目の前にして、高遠先輩は何を言うでも何をするでもなく、ただ立ちはだかっていた。
いつも通る静かな裏道の雰囲気は、今のあたし達の間に流れる空気を一層緊迫したものにする。
そのまま時間だけが過ぎていきそうな程に、あたし達はお互いどうする事も出来なかった。
『……那智……』
つと、高遠先輩が小さく口にしたあたしの名前。
その瞬間、俯くあたしの瞳から溢れ、零れ落ちた涙はアスファルトにいくつかの染みを付けた。