純情恋心

 * * *

どうしよう……、何も考えてこなかった……っ

勢い勇んで階段を降り始めたのはいいものの、あたしは途中で立ち止まった。

もう一度高遠先輩と向き合うために、……今度は突き離されないように話をしようと思ったのに、肝心な言葉を用意していなかった。

それによく考えてみたら、昨日の今日でまた先輩達の教室に行くのは、正直かなり気まずい。

昨日の自分の言動を思い出して、あたしは思わず赤くなる。

だけどあたしはどうしても高遠先輩を失いたくない、……だからちゃんと話をしないといけない。

あたしを好きだと言ったあの言葉を信じて、もう一度あたしの元へ戻ってきてもらうために。

……始まり方は悲惨だったのに、いつの間にかあたしの方が高遠先輩を必要としているなんて……。

自分でも信じられないけど、でもそれは事実だから。

あたしは高遠先輩が好きで、傍にいたくて……そして高遠先輩に、あたし自身を必要とされたいと願っている。

例えこの先どんなに冷たい態度をとられても……、あたしを完全には突き離さない貴方の優しさに漬け込んで、離れたりしない。

そう、心に決めたのに――……どうしよう、今からあたしはどうやって高遠先輩を誘い出せばいいの?

昨日でさえ冷たくあしらわれたのに、今日また教室まで行ったところで、今度はどうなってしまうの?

話かける事すら叶わない気がして、それを想像しただけでも怖くなったあたしは、一段下におろしていた右足を引き上げた。

教室に行くのは、やっぱりまずいかも知れない……じゃあどうする?

このまま諦める……?

……なんて、そんな選択は生憎持ち合わせていない。

そんな風に気持ちは強く、絶対に諦めたくないと思うのに、どうしても引っ掛かる部分があって踏み出せない。

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