純情恋心

一歩踏み出す事が出来たら、そのまま前に進んでいけそうなのに……どうして動いてくれないの?

自分の体なのに自由が利かなくて、どうする事も出来ないまま、あたしは階段の半ばで立ち尽くしていた。

――だけどそんな時、不意に千歳の顔が脳裏に浮かんだ。

そして昨日の夜、千歳に言われた言葉が頭の中に巡って……

“何があっても高遠先輩を離しちゃだめ”

“意地でも粘れ”

その言葉に背中を押され、あたしは一度引き上げた右足をもう一度、一歩前へと踏み出した。

――それからは不思議と足が勝手に前に進み、気付いたらあたしは高遠先輩の教室の前に立っていた。

だけど覗いてみた教室の中には、誰もいない。

電気も消えているし、念のためドアに手をかけて引いてみたけど、鍵がかかっていて動かない。

……そっか、次の授業は体育なんだ……。

以前自分の教室から校庭を眺めていたのを思い出し、あたしは思わず脱力した。

お昼休み終了間際に来たあたしが悪いんだろうけど、……だけどあんなに自分を力付けてやっと来れたのに、こんなのってあんまりだよ……。

でもいつまでもここにいたってどうにもならないから、あたしは回れ右をして教室に戻る事にした。

階段を昇りながら、もう一度高遠先輩を誘い出す方法を考え直す。

お昼休みが一番有効的だと思っていたけど、それはもうだめだから……もう残されたのは、たった一度のチャンス。

今日それを逃してしまったら、そのまま二度とチャンスが来ないような気がしてならない。

……というより、日にちを空けてしまうとどんどん気まずくなって、どんどん話しかけられなくなる気がして……あたしはただ自分の意気地の無さに呆れた。

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