純情恋心
いつになく真剣な千歳の眼差しは、あたしの心まで見透かすように真っ直ぐ見つめる。
あたしはそれを隠したくて、……隠さなくちゃいけない気がして、視線を反らした。
「ほんとに、大丈夫だからっ……あ、ほらチャイム鳴ったからもうすぐ来るよねっ」
丁度よく終業のチャイムが鳴り響き、あたしはそれでごまかしてみたけど……千歳の疑いの眼差しは、まだあたしに向いていた。
そしてその眼差しに、見透かされたのかもしれない。
『……ねぇ那智、高遠先輩とはさ、本当にケンカしてるだけ……?』
鋭い質問に、あたしは思わずギクリとした。
千歳の前では、あたしと高遠先輩はちゃんと恋人同士だった。
だからその裏で起こっていた事なんて、千歳に知られているはずがないし、気付かれたり勘付かれたりする事も有り得ない。
……今ここで下手な態度をとったら、絶対にまずい。
「そうだよ、あたしが高遠先輩を怒らせちゃっただけ……本当にそれだけだよ」
『じゃあ、なんで那智は昨日“別れ話かな”なんて言ったのよ! そんなに怒らせるとか、有り得るの?』
「そ、れは……」
まさか昨日の会話を掘り出されるとは思ってもいなくて、つい言葉に詰まってしまった。
昨日から千歳には疑われてもおかしくないような事ばかり言っていた、自分が悪いんだけど……。
『本当はずっと気になってたのよ……、那智ってたまにすごい深刻そうな顔してる時があったから』
「そ、そんな事……」
『あるんだよ。普通ならあまり気にしないけど、高遠先輩の話をする時に多かったから、どうしても気にかかってたの』
本気であたしを心配するような表情でそう言われて、あたしはやっぱり言葉が返せない。