純情恋心
「待ってよ、千歳……っ、あたし……」
バタンッと大きな音を響かせた昇降口のドアは、辺りを静まり返らせる。
脱力したあたしがその場に膝と両手をつくと、横に立つ先輩が気まずそうに口を開いた。
『……あれ、えっと……もしかして俺、今……』
「っ……もういいです、放っておいて下さい……!」
誰だか知らないけど、昨日も今日も……この人はなんなんだろう。
この人のせいで、千歳が……――でも昨日はこの人がいたから、高遠先輩と話す事が出来たんだった……。
『ごめん、俺たしか昨日も君に嫌な思いさせてたよね……?』
「………」
『で、でも、だって君は樹の彼女なんだろう!? だからなんかさ、えっと……奴の友人としては嬉しい訳で……』
「……それ、どういう意味ですか……?」
顔を上げないままそう問うと、頭上の遥か高いところから聞こえてた声が、すぐ近くになった。
それは先輩が、あたしに合せるようにしゃがみこんだから。
――そしてあたしは、思ってもみなかった事を耳にする。
『だって、君は“彼女なんてもういらない”なんて言ってた奴が作った彼女だから……』
「……え……?」
それは、……“彼女なんてもういらない”なんて言ったって……高遠先輩が?