純情恋心

誰か入ってきた、……先生かな?

保健室に入ってくるなり、薬棚を開けて何かを探るような音が聞こえてきたから、それが先生だと思った。

だけどしばらく身動がずにじっとしていると、今度はファスナーを開けるような音がして……鞄の中を探ってる?

「誰ですか、……先生ですか?」

問いかけると、音をたてていた相手はピタリと動きを止めた。

『………』

「………」

お互い出方を伺い、シンと静まり返った保健室は気まずい雰囲気を作り出す。

それはやっぱり居たたまれなくて……、あたしはもう一度問いかけた。

「あのっ、先生じゃないんですか? ……もしかしてあたしをここまで……」

『黙って』

カーテンの向こうから聞こえた低く小さな声は、あたしをその通りに黙らせる。

……それでも、その声はどこか優しげでもあり、あたしは胸をギュッと締め付けられるような感覚を得た。

「……どうして、黙らないとだめなんですか……?」

体を起こしてそう問いかけると、カーテンの向こうの人影が近付いてくるのが見えた。

そしてそのままベッドの目の前まで来ると立ち止まった人影は、カーテンの合わさったところを握る。

「えっと、あの……そこを握られたら、カーテンが……」

“開けられない”

――あたしがそう言おうとした、それと同時に。

『世の中知らない方がいい事もあるよね、……そうだろう、那智』

「え……っ!?」

カーテンの向こうの人影は小さくため息混じりにそう呟くと、そのままカーテンを強く握り締めた。

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