純情恋心

『なっ……』

「離しませんっ……! 絶対、あたしは離したりしません……、先輩を、離さないからっ……」

額は一瞬で離されてしまったけど、手だけは強く握って離さない。

想いを託すように、あたしは握り締めた手をさらにきつく握る。

「逃げないで下さいっ……あたしは、絶対に裏切ったりしないって、約束しますから……っ」

さっきあたしは、たしかに高遠先輩の傍にいる事は怖いと感じていた。

それでもこうして高遠先輩に触れると、そんな思いは払拭される。

表情が見えていなくても、言葉を絞り出すような弱々しい声が切なげに聞こえてしまって……そんな高遠先輩を、どうしても放っておけないから。

「あたしは、それでも先輩が、好きですっ……」

やっぱりこの想いは、決して変わる事はないだろう。

いくら傷付けられても、酷い目にあわされても……それでもそれが、高遠先輩だから。

高遠先輩を好きになったんだから、全てを好きになればいい。

悪いところも受け入れるくらいの気持ちでいれば、きっと……

「今のままでいいですからっ……あたしは今の先輩を、好きになったんだから……」

『それじゃあっ、……俺がよくないんだよ……』

カーテンを握り締める手に、再び力が加わる。

『君は、幸せになるべき人間なんだ』

ポツリと呟くか細い声。

それは静かな響きであたしの耳にスッと入る。

『だけど俺といたら、間違いなくそれは叶わない』

「っ、そんな……」

『那智、君が何を言っても、……俺の気持ちは変わらないよ』

真っ直ぐに伝えられたその言葉は、胸に刺さる。

ズキンと痛んだ胸を押さえて、あたしは高遠先輩をカーテン越しに見上げた。

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