純情恋心

『どうして君は、そんなにも俺を想ってくれるの……?』

「そ、れはっ……」

『傷付くのは君だよ? ……俺は何度君にそう伝えたかな、何度君を突き離そうとしてきたかな……』

そう呟く微かに震える声は、あたしの胸をギュッと締め付ける。

高遠先輩の切なげな声を聞いて、あたしまで切ない気持ちになった。

それでも、あたしが沈んでいたら何も始まらないから……。

「そんなの、数えてないから……わかる訳、ないじゃないですかっ」

少しでも場の空気をよくしようとそんな冗談を言ってみても、変わらない空気に自分で自分を悔いた。

だったら、どうしたら伝わるの……?

あたしが高遠先輩を想う理由なんて、説明出来ない。

好きになってしまったから好きなんだと、それではだめなの?

「……あたしは、理由なんて説明出来ません……。それでも先輩が好きだって気持ちは、たしかにあたしの胸にあるんです……!」

人を想う感情に、理由なんて必要?

人を想う感情は……自然と出来るもので、理由なんてつけられないものなんじゃないのかな……。

『……でも、な……』

「でもじゃないです……!! どうして先輩はっ、否定する事から始めるんですか……っ!?」

そんな否定ばかりされては、伝わるはずの事も伝わらない。

「好きだから好きで、いいじゃないですか……っ」

これ以上の理由なんて、いくら探したって見つからない……。

多分これが、素直な答え。

込み上げてきた涙を拭う事もせずに、ただ高遠先輩の手を握り続けていたあたしに。

『どうして君は、そんなに真っ直ぐなのかな……』


再び聞こえてきた切なげな声。

『何度も言うけど、俺は酷い人間だ。何の関係もなかった君を私情の巻き添えにした……』

静まり返った保健室内で、ゆっくりと話し出した高遠先輩の声を聞き逃さないように、あたしは耳を傾けた。

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