純情恋心
『そんな俺が、真っ直ぐで無垢な君を幸せに出来ると思う? ……無理だよ、俺には君を幸せにしてあげられる自信なんてない』
少し自嘲気味の高遠先輩の声は、あたしに、というよりは自分に言い聞かせるような口振り。
『……第一、権利がない。君を傷付けてきた俺には、君を幸せにする、……好きになる権利が、なかったのに……』
不意にカーテンを握る手に力が入り、一瞬止まった声にあたしは顔を上げた。
『……好きだよ那智。たしかに俺は、君の事が好きなんだ……』
「っ……!」
真っ直ぐに伝えられた想い、それは高遠先輩のあたしに対する気持ちの確証になる。
高遠先輩が、今、あたしに“好きだよ”って言ってくれた……!
あまりに突然の事に、言葉より先に涙が溢れて零れ出す。
何か言わなきゃと顔を上げると、その瞬間――ゆるんだあたしの手を離して、高遠先輩があたしに背中を向けたのが見えた。
「……っ!?」
急いでカーテンを開けると、保健室の出口へと歩み出していた高遠先輩の背中を見て、息が詰まった。
どうしてなんだろう……、背中だけで、高遠先輩が今どういう表情になっているのかがわかってしまった。
どうして貴方は、そういう切なげな雰囲気ばかり醸し出すんですか……?
「待って……っ、先輩っ」
ベッドから降りて上履きを履き、急いで背中にすがり付こうと思ったのに……足が思うように動かない。
あたしを突き離そうとする態度に臆してしまい、体だけが言う事を聞いてくれない……。
今すぐにでも、貴方を繋ぎ止めたいのに……!!
「嫌っ……待って下さい! 行かないで、待って……高遠先輩……っ!!」
うまく上履きが履けなくて、焦れたあたしはそのまま高遠先輩へ手を伸ばした。