純情恋心
ドアを開けかけていた高遠先輩の腰にタックルをするように、勢いよく体ごと飛び付く。
『え、っ……!?』
勢い余ったあたしは、飛び付いた瞬間に高遠先輩の体をドアに思い切りぶつけてしまって……そのままふたりで、床に倒れ込む。
『っ……痛いな、何してるんだよ那智!』
珍しく声を荒げた高遠先輩は、そう言いながらあたしの方に振り返った。
と、その距離があまりにも近くて……あたしは高遠先輩の上に乗っている状態のまま、動けなくなってしまった。
「ご、ごめんなさい……」
『っ……いや、ごめん。それより那智、とりあえずおりてくれないかな……』
そう言われて我に返ったあたしは、今の状況に驚いてあわてて高遠先輩の上からおりる。
「ごめんなさいっ! あ……あっ、お怪我はありませんか!?」
『いや、大丈夫……ていうか触りすぎだから……』
「え? ……あっ!!」
今までの気まずい雰囲気を思わず忘れて、高遠先輩に怪我はないかと体中を触っていた事に気付かされたあたしは、触れていた手を離して床につける。
「ごめんなさいっ、本当にごめんなさい……!!」
『いや、だからいいから顔を上げて』
土下座、とまではいかないけど、頭を深く下げると呆れているような声が頭上から聞こえた。
言われた通りに顔を上げると、高遠先輩はあたしを真っ直ぐに見つめていた。
だけど……
『それから、……もう離れてくれないかな』
「っ、……」
冷めた瞳を一瞬だけあたしに向けると、すぐに顔を背けた高遠先輩に……酷く痛く胸を刺される。
やっぱり貴方は、あたしを突き離す事しか考えていないんですね……。
高遠先輩を見上げていた顔を、熱くなった目頭を隠すように俯かせたあたしは、そのまま言葉さえ封じた。
今何かを言葉にしたら、多分涙も一緒に溢れて止まらなくなるから……。