純情恋心

「あたしはっ、先……ぱいの、傍にいたいですっ……!」

いくら小さく見えたとはいえ、実際の高遠先輩はあたしより遥かに大きいから、首に腕を回して胸におさめるのが精一杯。

それでもいつもならあたしを突き離す腕は、床に力なくおろされたままで……。

そんな高遠先輩から、今まで見た事のなかった部分を垣間見た気がした。

「先輩は……幸せに、なりたくないんですか……?」

そう問いかけるとピクリと反応した高遠先輩に、もう一度他の言葉で問う。

「本当はっ、幸せになりたいんじゃ、ないんですか……?」

あたしの幸せを願うばかりでなく……貴方自身の幸せは、どうなんですか?

幸せになりたくない人間なんて、いないと思うから……どうか正直に答えて欲しい。

貴方の幸せを、貴方自身が願う事は、許される事だから。

「答えて下さい……っ、あたしは先輩を、幸せにしてあげたいっ……!」

抱き締める腕に力を込め、ギュッときつく高遠先輩を閉じ込めると、ふとあたしの背中に何かが触れた。

それが高遠先輩の腕だと気付いた時、つと、その腕はそのままあたしの体を強く締め付ける。

『……なりたい、よ……』

小さくかすれたか細い声は、控えめながらに本心を主張する。

やっぱり貴方だって、幸せを願うんじゃないですか……。

だったらあたしは、その願いを叶えたい。

さらにきつく抱き締め、あたしは頭を高遠先輩の頭に近付けた。

耳元に直接、言葉を伝えるために。

「あたしじゃ、先輩を幸せに、させてあげられませんか……っ?」

< 140 / 184 >

この作品をシェア

pagetop