純情恋心

「あたしに、嘘をついてもっ……効果はないって、先輩は知ってるはずじゃないですか……!」

嘘をつかれても、騙されても……あたしが貴方を好きな気持ちは変わらない。

以前からあたしは、そう伝えてきた。

だから嘘をついたって、意味ないのに……。

『違う……俺は本当に君とは一緒にいたくないんだ! 君は、俺には……幸せに出来な……』

「そんな事ないっ……! あたしはっ、先輩の傍にいられるだけで幸せなんですよ……!?」

拒絶を示すように向けられた背にすがり付き、ブレザーをギュッと掴む。

そのまま軽く揺さぶると、力の入りきっていない高遠先輩は頭をふらふらとさせた。

「あたしを幸せに出来ないなんて、そう思ってるのは先輩だけです……」

高遠先輩の背中に額を押しあて、涙声にならないようにゆっくりとそう言うと、高遠先輩はそのまま口を開いた。

『そんな事ないよ……君は誰にでも幸せにしてもらえるはずだ』

「っ、だったら……」

『俺は無理だ。……だってそう思わない? 他人を幸せに出来るなら、自分だって幸せに出来るはずなのに……無理なんだ』

うなだれるように頭を下げた高遠先輩は、静かに言葉を続ける。

『自分の幸せさえ掴めないのに……どうしたら他人を、那智を幸せに出来るというの?』

床についていた手を握り締め、床を軽く叩きつけた高遠先輩を、あたしはきつく抱き締めた。

「出来ますよ……。だってあたしは、先輩と一緒にいられるだけで幸せだから……」

これは本当に嘘じゃない。

高遠先輩が傍にいてくれるなら、そこに想いがなくても構わない程……。

それでも貴方は、あたしを好きだと言ってくれた。

そしてあたしと一緒にいたいと願った。

だから高遠先輩……あたしを幸せに出来るのは、むしろ貴方だけなんですよ?

貴方にはそれが、わからないんですか……?

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