純情恋心

「いいんです……あたしは、どんな先輩だって受け止めます」

瞳を閉じて、ゆっくりはっきりと伝える。

「だから、もう過去の事は忘れて下さい。あたしを傷付けたと負い目を感じるのなら、それも忘れて下さい……」

貴方があたしを好きなら、それだけでいい。

「あたしは、先輩を幸せにしてあげたいんです。先輩があたしと一緒にいたいと望むなら、それを叶えたいんですっ……」

抱き締める腕に力を入れると、高遠先輩の手があたしの腕に触れた。

『那智……君は、俺が君にしてきた事を忘れたの?』

小さく呟かれたその言葉は、重々しい響きとなってあたしに伝わる。

――高遠先輩から受けた、あたしを傷付ける計画、それはたしかに酷かった。

誰でもよかっただなんて言われた時は、胸を鋭利なナイフでえぐられたような苦しさを感じた……。

それを忘れた訳ではないけど、あたしはそれすらも受け入れて貴方を好きになった。

だから今さら何を言われたって、ちょっとやそっとの事では傷付いたり、貴方を嫌いになったりなんてしない……。

「そんなの、もういいじゃないですか……。あたしが先輩を好きだからそれでいいんです」

『でもそういう問題じゃ……』

「いいんです! ……先輩の願いは、あたしと一緒にいる事、あたしの願いは、先輩を幸せにする事」

『ちょっと待って那智、どうして君は俺の幸せを願うの?』

少し振り返った高遠先輩は、困ったような表情をあたしに向けた。

あたしはその瞳を見つめながら、言葉を呟く。

「違うんです、あたしの本当の願いは……結局自分の幸せなんです……」

目を細めて少し首をかしげた高遠先輩に、あたしは微笑みを向けて続ける。

「“好きな人と幸せになりたい”……それがあたしの願いだから、本当はあたしが先輩と一緒にいたいんです」

< 143 / 184 >

この作品をシェア

pagetop