純情恋心

《あ、それで高遠先輩とはどうだったの?》

何事もなかったかのように話を進める千歳に、流されてしまいそうなあたしは話を一旦止める。

そして気になっていた事を問う事にした。

「ちょっと待って! それより千歳、今日学校での……」

《あ、あれは別にっ、……何でもないから気にしないで》

そう言った千歳の声に、明らかに焦りを感じた。

何でもないだなんて、きっと嘘だ……。

「……ねぇ、今から会えない?」

ちゃんと話を聞きたくて、そう問いかけてみる。

時間が遅いのはわかってる、見上げた部屋の掛け時計が23時を越えているから、こんな時間に外に出るなんていくら家が近いとは言え無理に近いはず。

そう思ったんだけど……

《今から? あたしは大丈夫だけど、那智は平気なの?》

意外にもあっさりと了承してくれた千歳に、あたしは少しホッとした。

「多分大丈夫、こっそり出ていくから」

《こっそり、って……後で怒られても今回はかばってあげないわよ?》

「うん、わかってる……」

――以前、あたし達がまだ中学生だった時、夜中にこっそり家を抜け出したのがバレて、親にこっぴどく怒られた事があった。

その時はその理由を千歳が話してくれたから、なんとかなったけど……。

「今回はちゃんと自分で責任とるから、大丈夫」

今回はあたしが全部責任をとらないといけない、千歳に迷惑はかけられない。

《じゃあいつものところで、また》

「うん、後でね」

通話を切って、ハンガーにかけてある上着を取る。

夏に近付いてきたとはいえまだ梅雨の時期、念のため上着を羽織ってから、あたしは家をこっそり抜け出した。

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