純情恋心

「――千歳っ!」

家を出てから少し歩いていつもの場所に向かうと、そこにはもう千歳がいた。

“そこ”はあたしと千歳の家のちょうど半ばほどにある、バス停。

『ね、バスが来ない時間に会うなんて初めてじゃない!?』

会うなりにっこりと笑ってそう言う千歳に、あたしは少し緊張が解れた。

思わず少し口元が緩む。

「そうだね。それよりごめんね、こんな時間に呼び出して」

『ううん、……本当はあたしも那智と話したい事あったんだ。だから大丈夫だよっ』

千歳があたしに話したい事って、なんだろう……?

立ったままそう考えていたあたしに、千歳はバス停に備えてある小さな木製の椅子の半分を空け、そこをぽんぽんと叩く。

『座りなよ、そのままだと疲れそうだし』

微笑みを向けてそう言う千歳に促されるまま、あたしはその椅子に腰掛けた。

少し小さいからふたりで座るのがギリギリで、あたしは無意識に千歳との距離を狭めてしまう。

『……なんか、前より座りにくくなったね』

「そうだね、……ごめん、あたしが太ったのかも」

『いやいや……あんたのどこ見たら太って見えるって言うのよ』

お互い以前よりも体が大きくなっているから、椅子が小さく感じるのは当然。

少しの間そんな会話をしていて、なんとなく区切りがつくと……本題に入る。

「……千歳、怒ってたんじゃなかったの?」

だけどなんの前触れもなくそう言ったのがまずかったのか、千歳はポカンとしてあたしを見た。

「や、だからあの……今日の帰りの……」

『ああそれね、うん、怒ってた訳じゃないよ』

千歳はあたしから視線を外し、ゆっくりと瞳を伏せると膝の上に置いていた手をギュッと握り締めた。

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