純情恋心
赤面しているあたしを見ると、高遠先輩は笑った。
あの時のような、優しい表情で……。
そんな表情を見てしまったから、あたしは不覚にもドキッとしてしまった。
だけど高遠先輩は笑いながら、あたしの腰に回していた手を動かして、体を徐々に引き寄せる。
「やっ、やめっ……」
だからあたしは出せる限りの力で、体を引き寄せられないように抵抗をした。
『那智……、だから抵抗しないでって言ってるだろう?』
「い、や、ですっ……!」
『那智、あんまり抵抗すると……』
「っ、や……っ」
高遠先輩の言葉に、あたしは嫌な予感がして体を強張らせた。
だけど高遠先輩は何も言わないし、動きもしなくて。
あたしは体の力を抜いて、高遠先輩を少しだけ見た。
――と、その瞬間だった。
「っ、ひやぁ……っ!?」
突然耳に息を吹き掛けられて、あたしは思わず飛び上がる。
そんなあたしに、高遠先輩はまた笑いながら……小さく悪戯な言葉を口にした。
『ふふ……ほんと、那智っていじめがいがありそうだね……』
その言葉にあたしは唖然として、心臓はドクンと大きく脈打つ。
いじめがいがありそうだなんて、そんな……あたしは別に普通にしてるだけなのに……。
『……那智』
「っ、ひゃい……っ!?」
耳から直接名前を囁かれて、鼓膜を震わす空気にゾクリと体を強張らせながら、あたしは返事をした。
だから少し、変な返事になってしまった。
『ははっ、ひゃいって……本当に面白いね。なかなか楽しめそうだ』
そう言って笑う高遠先輩は、なんだか優しげで……やっぱりあたしはドキドキしてしまう。
どうしてなのかな……、さっきまでは少し怖くも感じたのに……。