純情恋心
『那智っ、昨日のは何!? 詳しく話なさいよぉ!』
――自分でも訳がわからないまま、一晩越してしまった。
あたしは今、高遠先輩との事を話すようにと千歳に迫られている。
「詳しくって……千歳は何を見たの……!?」
どこを見られていたのか、もしキ……キ、す、されたところを見られていたとしたら、どう答えればいいのかとあたしは頭をフル回転させていた。
だけど千歳の言葉は、あたしのそんな心配なんて払拭させた。
『ん? 椅子に座ってたのを見た。でもひとつ空けてたよねー……やっぱり那智は恥ずかしがりなのねっ』
「あ、そ、そっか……っ」
『うん、……何で?』
そう問われて、あたしは思わず笑顔が引きつる。
何でって……そんなの、言える訳ない。
「ううんっ、何でもないよ!!」
『ふーん……で?』
それだけではないでしょ?と問いかけるようにあたしを見る千歳に、これ以上は言えないから、あたしはなんとなく話を逸らす。
「あっ、今日は購買にチョコチップメロンパンが来る日だね!」
『……そうだね、でもそんな事より、ちゃんと話しなさいよ!』
そう言うと千歳は、あたしの額を軽く小突いた。
「っ、話すも何も、別に何もなかったよ……っ」
『えーっ、ただ椅子に座ってただけ? そんな訳ないでしょっ!?』
「別にっ、ほんとに何もなかったんだってば……!」
あたしがそう言うと、千歳は腑に落ちないような表情をあたしに向けた。
そんな顔されたって、いきなりキスされたとか、俺のもの発言されたとか、そんな事言えないよ……!
『……まぁ那智がそう言うなら、そうなのよね』
困惑しているあたしに、千歳はひとつため息をついて少し笑うと、小さくそう呟いた。
「うん、そうだよ……っ」
千歳には悪いけど、とてもじゃないけど言えない。
高遠先輩との事は、あたしだけの内に留めておこう。
そう思ったんだけど……それはなかなか、うまくいかないもので。
秘密にしておきたい事に限って、大抵秘密にしきれない。
あたしはこの後、高遠先輩によって自分の人生を狂わせられるという事に……まだ、気付いていなかった……。