純情恋心
* * *
――さらに数日が経ったある日、それは突然に起こった。
『那智……?』
「っあ……た、高遠、先ぱ……っ!?」
移動教室の帰り、渡り廊下で声をかけてきたのは紛れもない、高遠先輩。
『うわー……やっと会えた、探してたんだよ?』
「っえ、っ……」
その言葉にドキッとさせられて、だけどあたしは隣からの視線に違う形でドキドキしていた。
高遠先輩、なんで声かけてきたんだろう……、今隣に千歳がいるのに……!
『後輩だっていうのはわかっていたけど、……2年生だったんだね。どうりで見つからなかった訳だ』
「え?」
『小さいから、……いや、失礼。可愛らしいから1年生だとばっかり思っていたよ』
笑いながらそう言う高遠先輩に、あたしは少しだけショックを受けつつ、なんだかそわそわしている千歳に視線を向けた。
『ちょっと、何々っ、どういう関係なの?』
小さな声でそう問いかけてきた千歳に、あたしは言葉をつまらせる。
うまい説明なんて、あたしには出来ない……。
どういうも何も、高遠先輩はあたしのファーストキスを奪って、あたしを俺のもの発言してきただけ。
……あれ……?
そういえばあたし、ファーストキスを奪われたのにどうして高遠先輩の事、嫌だって思えてないんだろう?
普通だったら嫌だよね?
ほぼ初対面だった人にキスされるなんて……。
不意にそう思って、あたしは高遠先輩に目を向けた。
『……どうしたの?』
「い、いえ……」
どうしてあたし、普通に顔を見れるんだろう?
『そうだ那智、ちょっと時間あるかな?』
「え? えっと……」
『どうぞどうぞっ、じゃああたしは先に教室戻ってるから!!』
千歳はあたしの背中を押して高遠先輩に近付けると、そう言って足早にこの場を去っていった。
ふたりきり……ではないけど、ふたりきりにさせられて。
数名のクラスメイトがあたしと高遠先輩の横を通り過ぎて行く中、あたしは少しだけ居心地が悪かった。
どうしてあたしは、高遠先輩とこうして普通に一緒にいられるんだろう……。
冷静に考えてみたら、高遠先輩はあたしのファーストキスを奪って、あたしの自由までも奪った酷い人なのに……。