純情恋心
『那智、それって……』
――キーン……、コーン……、カーン……、コーン……
「あっ、チャイム……!」
いいタイミングで鳴ったチャイムにあたしは少しホッとしつつ、早く教室に戻らなきゃと焦った。
「あの、あたし教室遠いので、し……失礼します……っ!」
一度頭を下げて、高遠先輩とは目を合わさないように背を向ける。
だけど腕を掴まれてしまって、結局逃げる事が出来なかった。
『待って、……放課後会おう、クラスはどこ?』
「っ……」
『那智、言うまで離さないよ?』
そう言いながらあたしの腕をきつく締め付ける手に、本気だと諭される。
「D組、ですっ……」
だからあたしは、そう小さく答えた。
『D組ね、わかった、迎えに行くから待ってて』
「えっ……」
『ん?』
「ぃ、いえ……、じゃあ失礼します……!」
腕を掴む力がゆるんだ瞬間に、あたしはサッと腕を引いて、そのまま教室へと駆け出した。
あたし……何か変かも。
高遠先輩の言動ひとつひとつに、いちいちドキドキしてる。
あの人はあたしを半ば無理矢理拘束してるはずのに、嫌だと思えない……。
別に好きって訳ではなくて、ただ、嫌いでもなくて……それがいけないのかな?
嫌いになれないから、高遠先輩を否定しきれない。
そうなのかな……、なんかあたし、自分がわからないや……。
あたしはそんな事を思いながら教室へ戻った。
教室に着くと千歳が駆け寄ってきたけど、ちょうど教科担当の先生が来たから、千歳はあたしに『あとで詳しく教えてね?』と言うと自分の席へと戻った。
詳しくって言われても……あたしは全てを話す事は出来ない。
というより、あたし自身がまだ全てを理解しきれてないから、何も話せないよ……。