純情恋心
電車が完全に止まり、ドアが開く。
たくさんの人が降りてきて、あたし達に視線が向けられた。
「〜〜っ……!」
唇が離れると、高遠先輩はあたしを軽く押して……電車の中へ入れる。
「え……あっ……!!」
あまりに突然の事で頭がついていっていなくて、ハッとした時には、もう遅くて。
電車のドアは閉まり、あたしは高遠先輩に何も言えないまま……電車はゆっくりと走り出す。
ドアに張り付いて駅に残る高遠先輩を見ると、その表情は少し哀しげに見えて。
だけど小さく手を振りながら、悪戯に笑っていたようにも見えた。
走り出した電車内では、さっきの事であたしに視線が集まっていた。
だけどあたしは、そんな事よりも高遠先輩の事でいっぱいで……視線なんて気にならなかった。
“那智がいいんだよ”そう言った高遠先輩。
だけどその言葉の真意がわからなくて、それを問いかけても答えてくれないから、困るのに……。
表情の変化とか、突然の行動のせいで、余計にわからなくなる……。
――悪戯な微笑、隠す心情
あたしにはまだ、高遠先輩が何を隠しているのか、わからない……。