純情恋心
今日初めて認知した人の事なんて、わかる訳がない。
……だけど、悪い人ではないんだろうな。
悪い人だったら、あんな風に優しく笑えないと思うし……。
『ところで、もしかして那智、初恋?』
「え……? っや、だから違うっ、そんなんじゃないてば……!」
不意の問いに、あたしは手を大袈裟なくらいに振ってそれを否定した。
だけど千歳にとっては、あたしの否定が逆に確信に変えてしまったのかな……。
『その焦り方は“嘘です”って言ってるようなもんよ、顔と行動が合ってないから』
そう言われて、あたしはさらに紅潮してしまう。
小さい時からずっと一緒だった、いわゆる幼馴染みの千歳には、あたしの恋愛事情も知られている訳で。
あたしが今まで恋をした事がなかった事も、当然のように知られていた。
だから千歳は、あたしの少ない変化にも余計敏感なのかな……。
それともあたしが、本当に単純なだけ?
――でもその前に、あたし……あの人の事、好きなのかな?
恋という感情を自覚した事のないあたしには、今胸の内で起きている変化が何なのか、まだ理解しきれていない。
だからこの心臓の高鳴りも、熱く火照る体も、頭から離れないあの人の微笑みも……何が原因なのか、あたしにはわからない。
『まぁとりあえずあれだね、頑張りなさいよ』
「っ、だから……」
『あーはいはい、わかったから、頑張りなさい!』
そう言いながらあたしの背中をバシバシと叩く千歳に、あたしは紅潮した顔を俯かせる事しか出来なかった。