純情恋心

――“好きに理由なんてない、好きなものは好き”

……そっか。

そうだよね、別に理由なんてなくてもいいんだ。

ただ好きだと思えたから、好きってだけで……――でも、それじゃあ高遠先輩の気持ちの事は?

あたしは高遠先輩があたしを選んだ理由を、知りたいと思っている。

なのに自分の都合のいい事だけは、理由なんてなくていいだなんて考えて。

あたしは高遠先輩の気持ちを、“理由なんてなくてもいい”とは思えない。

少しでもいいから理由を知りたい、少しでもいいから教えて欲しい。

じゃないとあたしは、ただ傍にいるだけの現状では耐えられないから……。

『……那智?』

突然顔を覗き込んできた千歳に、あたしはハッとして顔を上げた。

『どうしたの?』

「ううん、なんでもない……あたしトイレ行ってくるね……っ」

そう言ってあたしは、窓際から離れて足早に教室を出た。

――……やっぱりどんな事にも、理由はないとだめなんだ……。

そうじゃないと、わからない事が多すぎる……。

あたしは廊下で立ち止まり、窓の外を仰いだ。

見上げた空は少し淀んでいて、まるであたしの気持ちみたいに思えた。

高遠先輩の傍にいる事で、嬉しい気持ちと複雑な気持ちが曖昧な気持ちを作り出していて。

あたしのその微妙な気持ちが、今日の空と似てる気がする……。

高遠先輩の気持ちを知りたい、……そう思うのはどうして?

あたしが高遠先輩を好きだから?

それもそうだけど、多分……不安だから。

あたしが高遠先輩を好きでも、高遠先輩があたしを好きでいてくれないとやっぱり嫌で。

それでも離れていかれてしまうのは……もっと嫌。

だからどうしても高遠先輩の気持ちを知りたい、少しでもあたしを想う気持ちがあるなら、教えて欲しい……。

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