純情恋心

高遠先輩は振り向くと、あたしの頬に手を添えて上を向かせ、あたしの顔をまじまじと見つめる。

それをされるとどうしても恥ずかしくなって、あたしは視線だけでも高遠先輩から逸らした。

『どこが痛い?』

「っ……どこも、痛くはない、です……っ」

『クスッ……本当に?』

小さく笑いながらの問いかけにあたしが首を縦に振ると、高遠先輩の手はあたしの頬から離れた。

『そう、じゃあ行こうか。これからはぶつからないように、ちゃんと俺の隣を歩いてくれる?』

「……はい……」

優しげな眼差しでそう言った高遠先輩に、あたしは思わず呆けた声を出してしまった。

『……那智、もしかしてまだ緊張してるの?』

「っえ……」

隣を歩いていたつもりだったのに、いつの間にか少しだけ前を歩いていた高遠先輩があたしを振り返る。

『足の動きが悪いよ、合わせにくくなっちゃったじゃん』

「えっ……ご、ごめんなさい……っ」

皮肉にも聞こえるけど、あたしに合わせようとしてくれている事に少しだけ嬉しくなる。

それでも合わせてもらうのは悪くて、あたしは歩幅を広くした。

『……あ、俺に合わせなくていいよ、それじゃあ疲れちゃうだろう?』

だけどそんなあたしに気付いた高遠先輩は、歩く速さを遅くしてあたしを見た。

「いえ、大丈夫です。あたしが遅すぎるだけですから」

『いや、俺が変な事言ったのが悪いんだよね……。気にしないで、俺に合わせる必要なんてないから』

そう言うと高遠先輩は、握っていた手をあたしの目の前まで上げる。

その手を見た後に視線を高遠先輩に向けると、高遠先輩はあたしに優しく微笑んだ。

――その表情が、あの日の高遠先輩と同じで……あたしは言葉が出なかった。

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