純情恋心

「っ……、せんぱっ……待って下さい……!」

遠ざかろうとする背中に、あたしはめいっぱい手を伸ばした。

ブレザーの裾に微かに触れた指先は、それでは到底留められなくて。

「どうして……、どうしてですかぁ……っ!!」

もう一度手を伸ばしても、まだ届かない……。

どうして、どうして、どうして……!!!?

「せんぱい……っ!!」

捨て身のつもりで背中に飛び付くと、意外にも簡単に掴まえられて。

あたしはそのまま、背後から高遠先輩の腰に手を回した。

「まだ、行かないで下さい……っ」

逃がさないように、抱きつく腕に力を込める。

“もう会うのをやめよう”

そう言った高遠先輩の言葉があまりにも重く感じて……、今離したら、本当に会ってくれなくなるかもしれないと思ったから……。

「……どうして、ですか……?」

高遠先輩の背中に額をぴったりと寄せて、涙声になりそうなのを堪えて問いかける。

――もうこれ以上、あたしを苦しめたくない……?

そんなの、いまさら。

今まで高遠先輩は、あたしを幾度となく苦しめてきて、傷付けようとしてきた。

それなのに……いまさら苦しめたくないだなんて、そんなのやっぱりおかしいよ……。

「答えて下さい……どうして先輩は、あたしを……」

『答えられない』

「……な、んで……っ?」

頭上から落とされた言葉は、冷たく胸に刺さった。

瞬間、目頭が熱くなって……溢れた情は次々と流れ落ちる。

『……君を、傷付けたくないから……』

そう言った高遠先輩の声を聞いて、やっと気付いた。

高遠先輩はあたしを傷付けたくないんじゃない……“自分が傷付きたくない”んだ……。

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