純情恋心
ふとそう思って、俯いていたあたしは高遠先輩の手を見て……自分の目を、そして高遠先輩の言葉を疑った。
……どうしてそんなに、震えているの……?
ギュッと握り締められた手は、涙で滲んだあたしの視界でもわかるくらいに震えていて。
つと高遠先輩を見上げると、さらに全てを疑った。
「……どうして……っ、せんぱいが、泣くんですかぁ……っ」
瞳から伝う、一筋の雫。
それは紛れもなく、高遠先輩自身のもので……
『っ、本当は、傷付けたくないんだ……っ』
矛盾の言葉は、震えてかすれて……消えそうで、それでもはっきりとしていた。
じゃあどうして貴方は、あたしを傷付けるの……?
そう問いかけるように見つめると、一度瞳を拭った高遠先輩と目が合った。
『……でも、もう遅いんだよね……、だからこれ以上傷付けないためにも離れるんだ』
無理に笑った表情はあまりに辛く見えて、あたしは思わず、高遠先輩にギュッと抱きついていた。
『っ、那智……、聞こえなかったのか……!? 俺は君から、離れなきゃいけないんだ……!』
「だったら……っ、なんでそんな哀しい顔をするんですか……!!」
あたしを離そうとする高遠先輩に抵抗して、さらに腕に力を込める。
まだ隠してる、高遠先輩は、きっとまだ何かを隠してる……!
「言って下さいっ……! 先輩は、矛盾してます……あたしはっ、隠される方が、嫌なんです……っ!!」
もうこれ以上に傷付く言葉なんて、ないと思う。
だから教えて下さい……、貴方の真実を……。
「お願いします……、教えて下さいっ、“傷付けるつもりで近付いた”って、どうしてですか……?」
そう問うと、あたしを離そうとしていた高遠先輩の腕の力がゆるんだ。
そしてその腕は、重力に逆らわずに力なくおりる。
『……言えない』
小さな呟きが耳に届き、あたしの瞳はさらに潤む。
それでも言って欲しいんです……。