純情恋心
高遠先輩は、あたしを傷付けるつもりで近付いたと言うのに、傷付けたくないとさえ言う。
その矛盾を解決させるために、心の痛みが伴うのだとしても……そのくらいの代償は、受け入れるから。
「言って下さい……あたしは先輩を、理解したいんです……っ」
涙声でそう伝えると高遠先輩は哀しげに笑って、小さな声で、言葉を絞り出すように話し始めた。
『……年上だったんだ、彼女は俺が中学の時、家庭教師をしていた』
重々しく開いた口から、小さくゆっくりと言葉が呟かれる。
『俺が一方的に好きになった、……それでも付き合ってくれた、ちゃんと好きだと言ってくれていたんだ……』
少し話すと、少しだけ間をあけてまた話す事の繰り返し。
本当は、本当に言いたくなかったのかもしれない。
話が途切れる度に、表情が曇っていくのがわかったから。
多分……辛い思い出だったんだと思う……、だから貴方は、今にも泣き出しそうな表情なんですよね……?
『好きだと言ってくれていたから、信じていた。それなのに、……嘘だったんだよ……』
突然コツンと額を合わせられて、あたしは少し驚きながらも黙ってそれを受け止める。
肩に添えられている微かに震える手をとり、握り締めると……目を開いた高遠先輩と、間近で視線が絡んだ。
『……ごめんね……、やっぱり俺は、君を傷付ける事しか出来そうにない……』
「っ、そんな事ないです……あたしは、先輩がいてくれるだけで……」
『――想いがなくても、……そう言ってくれるの?』
哀しみに満ちた瞳に見つめられ、あたしが握っていた手は逆に痛いほどに握り締められて。
残酷な言葉は、冷たく真っ直ぐにあたしに届く。
『俺は那智に、俺と同じ思いをさせるために近付いたんだよ……?』
「……え……?」
哀しく笑う高遠先輩は、そう言うと握っていたあたしの手を離した。