純情恋心
『はは……酷いだろう? 俺は自分のされた事を、ただ誰かに思い知らせたかっただけなんだ』
「……どういう意味、ですか……?」
自分のされた事って……、そんなのいきなり言われたってわからない。
思い知らせたかった……?
どうして?
あたしはそんな事知らない……、どういう意味なの……!?
なんとなく嫌な予感がして、すがり付くようにして高遠先輩を見上げると。
少し笑っていた表情は一瞬で真顔になった。
『彼女への復讐心が、……本人に向けられなかったから、それを誰かに、……そう、たまたま出逢った那智に向けただけだ……』
そう言うとまた、少し笑ってあたしから顔を背けた。
――あたしにはまだ、高遠先輩の言葉の意味も、高遠先輩の心の中もわからなかった。
それなのに……あたしは心のどこかで、理解していたのかもしれない。
無意識に溢れて瞳から零れる雫は止めどなくて、どうする事も出来なかった。
高遠先輩……、貴方の心は今、どこにあるんですか……?
「っ……、ふぇ……っ」
あたしが漏らす嗚咽は、高遠先輩の耳に届いているはずなのに、背けた顔をこちらに向けてくれる様子は一切はなくて。
それどころか、さらに冷たい言葉を溢された……。
『ただの八つ当たりだった……、俺を捨てて勝手に幸せになった彼女への怒りを、なんの関係もない君にぶつけて、……そして君を、同じように傷付けるつもりだった』
言い終わると真っ直ぐにあたしを見つめて、涙で滲むあたしの瞳を優しく指で拭うと……すぐに一歩下がってあたしから離れた。
『でも出来なかった……いや、もう傷付けてしまったけど、君を大切だと思うようになったから……』
「っ……それは……」
『だからさよならだ。那智……俺は君が大切だから、幸せになって欲しいから、さよならだよ……』
無理して笑った高遠先輩は、そう言うとあたしの肩を軽くぽんと叩き、突き離すようにあたしから距離をとった。