純情恋心
* * *
「あ、あのっ、高遠先輩は……」
『高遠……あぁ、樹の事? あいつならさっき出ていったけど』
――お昼休みになって、あたしは初めて高遠先輩の教室を訪れてみた。
だけどそこに高遠先輩はいなくて……。
「そうですかっ……、すみません、ありがとうございま……」
『待って、君ってもしかして那智ちゃん?』
「……え?」
いないならと、早く自分の教室に戻ろうとしたあたしの腕を掴み、そう言った男子の先輩をあたしは見上げた。
『そうなんだ?』
「え……あの、そうですけど、えっと……」
ズイッと顔を近付けられて逃げ腰になるあたしに、先輩はさらに詰め寄る。
『ふぅん……』
「……っ」
どうしよう……、なんかよくわからないけどすごい見られてる……!
怖じ気付いて逃げようにも、腕を掴まれてしまっているから逃げられなくて。
何度か強く腕を引いて反抗してみたけど……それすら敵わない。
「あのっ……あたし、そろそろ教室に戻りたいんですけど……っ」
『え? あぁ、うん、でも多分もうすぐ帰ってくると思うし、待ってなよ』
そう言うとなおも強く腕を掴むから、あたしはどうしたらいいのかわからなくておろおろしてしまう。
それに、先輩達の教室が並ぶこの場所に、学年が下のあたしがいる今この状況でさえ、注目されていて居心地が悪いのに……。
『中入ってれば? 君、樹の彼女だろ、だったら誰も何も言わねぇし』
「いえっ、でもあたし……――え……?」
先輩の言葉を断る途中で、ひとつ引っ掛かる言葉に気付き、あたしは抵抗を忘れて顔を上げた。
彼女、って……高遠先輩、この人にあたしの事そう話していたんだ……。
よかった……、高遠先輩あたしの事、ちゃんと彼女だって言ってくれていたんだ……!