純情恋心
「あたしは……っ、認めないです、あんな一方的な言葉なんて、絶対……!」
『認める認めないの問題じゃない、……君に選ぶ権利なんてない、帰ってくれ』
目を合わす事なく、冷たい言葉を突きつけて。
それだけ言うと高遠先輩は、逃げるように足早に教室に入ろうとした。
だけどあたしは、それを簡単には許さない。
素早く手を伸ばし、ブレザーの裾に少しだけ触れた指で摘み、高遠先輩の動きを止めさせた。
「逃げないで下さい……! ……話くらい、させて下さいよ……っ」
そのままブレザーの裾をギュッと掴み直し、少し震える声でそう言ったあたしに、高遠先輩は小さな呟きで、ただ一言。
『……話したって、何も変わらない……』
落ち着きのある重々しい声は、あたしに何かを悟らせているように感じた。
それでもあたしは高遠先輩の背中にすがり付き、掴んでいた手にさらに力を込める。
『……だから那智、離してって……』
「っ、嫌、です……っ」
公衆の面前で大胆な行動に出ているあたしの様子に、次第に周囲がざわめき出す。
たくさんの視線を背中に浴びている事に、あたしは気付きながらも……そんな事、気にしてなんかいられなかった。
だって今手離したらきっと、高遠先輩はあたしと訣別する気がしたから。
本当にあたしの気持ちなんて無視して、勝手に離れていくような……、そんな気がしてならなかったから……。
『……はぁ……、わかったよ、わかったから離して』
ため息にのせてそう言うと、高遠先輩は振り返ってあたしを引き剥がした。
『とりあえず今は帰ってくれないかな、……放課後、教室に迎えに行くから』
強情なあたしに呆れたような表情を向ける高遠先輩は、目も合わせずにそれだけ言うと教室へ入っていった。
『……よかったの?』
その後ろ姿を見つめるあたしに、斜め上から声がかかった。
それは少し気まずそうに、一部始終を近くで見ていた男子の先輩。
「いいんです、勝手ここにに来たあたしが悪いんですから……」
あたしはそう言って笑い、先輩に小さく頭を下げて自分の教室へと歩き出した。