【件名:ゴール裏にいます】
沙希ちゃんと二人で段幕を片付け、もう一度新潟スタジアムを見渡した。
そして目に焼き付けた。
僕らはここあさんを追い掛け、タクシー乗り場の列に並んだ。
以外に早く僕らの順番が回ってきて、来た時と同じように僕は助手席、二人は後部座席へと乗り込んだ。
ホテルの名前を告げ、復唱する運転手さんの手首にはアルビレックスのリストバンドが巻かれていた。
(来た時のタクシーの運転手さんも巻いていたな)
僕は今度は話し掛けてみた。
「運転手さん、そのリストバンドはみなさん巻かれているんですか?」
「ああ、これ?そうだね。この辺のタクシーの運転手はみんな巻いてるね。試合のある日だけだけど」
僕はアルビレックスサポーターが3万人超集まる訳が分かったような気がした。
こんなほんの小さな事から波紋は広がってゆくのだろう。
ホテルに戻り、手早くシャワーだけ済ますと食事の用意がしてあると言う22階の宴会場へ向かった。
広い座敷の宴会場につい楯で仕切をしている。
そこに三人分の会席の御膳ともう一つ、ズワイガニと刺身の船盛りの乗った御膳があった。
(これは豪華だ。沙希ちゃん喜ぶだろうな)
僕より10分遅れて二人は浴衣姿で現れた。
「うわぁ〜!凄いご馳走!勇次くん奮発したね」
「さあ、今夜は飲むわよ!」
それぞれに好き勝手な言葉を発しながら僕の対面の席に並んで座る。
「僕はこの利き酒セットを貰いますが、二人はどうします?」
「私はビールね」
「じゃあ、あたしも少しだけビール」
近くに待機している仲居さんにそれぞれの飲み物を頼んで宴会は始まった。
「カニ、カニ、カニ・・」
沙希ちゃんは既にカニに夢中の様子。
食べやすいように切れ込みの入ったズワイガニを次々と口の中に入れていく。
「ほひひい、ほひひい」
多分、美味しいと言っているのだろう。
ここあさんはビールが来るまで、御膳にあった食前酒を沙希ちゃんの分まで飲み干した。
利き酒セットとビールが運ばれてきて改めて乾杯をする。
そしてコップ一杯のビールを飲み干したここあさんが言った。
「私、あの店辞めるわ、疲れちゃった・・」
箸が一瞬止まった。