【件名:ゴール裏にいます】
篠原さんは驚いたような顔で僕を見た。
「僕、あの会社辞めちゃったんです。いろいろとあって。で、今日から新しい会社に勤めだしたんですけど」
名刺を一枚テーブルに置いた。
それを篠原さんは手に取った。
「『H・O・S』・・」
「知らないでしょ?小さな会社だし、求人広告も滅多に出さないし。でもね、そこはプロの集団でした。どうです?同じプロとしてまた僕とやりませんか?」
「どうして――。どうして私を誘うの?」
「そりゃ、篠原さんもプロだと思うからですよ。篠原さんなら事務系のスキルもあるし、製造業にも通じてる。僕は今、一人の担当もいません。まったくのゼロです。そこから篠原さんと始められたら良いなぁって思ったんです」
僕はポケットからマルボロとライターを取り出し、口に一本くわえてから火を点けた。
「煙草・・」
「あ、良いですか?吸っても?」
「良いけど。吸わないんじゃ無かったっけ?」
「サッカーをね、観に行ったんですよ。そしたら興奮しちゃってつい煙草を吸うようになりました」
「サッカーって、もしかしてトリニータ?」
「そうです、そうです。篠原さんは観ないんですか?サッカー」
「観ないどころか毎回行ってるわよ。子供が少年サッカーしてるもの。それに吊られて一回観に行ったら私の方がハマっちゃった」
「本当ですか!驚いたなぁ。僕、新潟まで行っちゃいましたよ。凄かったですよ、新潟のサポーター」
「新潟行ってたの?惜しかったわよね、船越が先取点入れたまでは良かったのに」
「そうですね・・新潟まで行って負け試合は辛かったですよ。そうだ、もう一回乾杯しましょうよ!」
「何に?」
「大分トリニータに!」
今度は勢い良くジョッキが合わさり、僕は残っていた生ビールを飲み干した。
「勇次君、ちょっと見ない間にずいぶん変わったね・・」
「え?何か言いました?」
「何でもなーい!歌っちゃおーっと!」
「あ、良いですね!あれでしょ?工藤静香の慟哭!」
ここからカラオケ大会へと突入し、飲んだり歌ったりで大いに盛り上がった。
で、
この状況は?
気がついたらどう見てもホテルの一室でした・・。