【件名:ゴール裏にいます】
「おはよう」
「おはようございます」
社長が小さな手を引いて通路側のドアから姿を現せた。
「千尋ちゃんおはようございます」
小さな先輩は今日も絵本を小脇に抱え、ニコニコと笑っている。
「それで?昨日の報告は?」
「あ、そうでした――」
僕は主任の話をかい摘まんで原田社長に報告をした。
「そっか、『H・O・S』も嫌われたもんだわね。ごめんね勇次くん、やり難いでしょう」
「そうですね、新規の獲得は難しいですね。だからこれを足掛かりにしたいと思っています」
「なかなか言うじゃない。で?派遣スタッフの手配は?」
「はい、1人は確保出来ています。あと2人は今からになりますが」
「綾蓮、事務の保留組いたわよね?連絡取って、カメラのラインだっけ?そこなら待たずに働けるって伝えてみて」
「はい、社長」
「ありがとうございます。それで面接をお願いしたいんですが」
「それはあなたの仕事よ。私は口を出さないわ。全てあなたが決めなさい。そして全ての責任はあなたにあるわ」
「はい!わかりました!」
「社長、2人見つかりました」
「え?」
僕は原田社長と綾蓮さんを交互に見た。
(何て凄い人達なんだろう――)
千尋ちゃんを園児バスに乗せてから僕は一日を会社で過ごした。
篠原さんに連絡し、入社日を決め、それに合わせて残りの2人の予定を組んでいく。
夕方になりB社の主任とジョイフルで落ち合い、詰めた話をした。
帰りがけに、
「主任ありがとうございました。今度良い店紹介しますよ」
僕の言葉にいやらしい顔で主任は笑った。
(そんなんだから他人に隙を突かれてしまうんじゃないか)
喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
それを僕に言う資格はない。
僕も自分の足元は見えていなかった。
「このまま帰ります」
綾蓮さんに連絡を入れ、会社より近いアパートへとステーションワゴンを向けた。
アパートの下の駐車場に沙希ちゃんのライフが停まっていた。僕はもう一つの駐車場にステーションワゴンを停めてから歩いてアパートに向かった。
『メゾン・ciel』
301号に人のいる気配がする。