【件名:ゴール裏にいます】
僕の部屋で誰かが僕の帰りを待っている。
新鮮な感じがした。これまでには感じた事のない感じだった。
部屋の前で一呼吸おいてからドアを引いた。
「ただいまー!」
パタパタと駆け寄る音がして沙希ちゃんが姿を見せた。
「おかえりー!早かったね!あ、それ・・」
「このスーツにぴったり合ったんで今日一日着けていましたよ」
僕は沙希ちゃんのプレゼントしてくれたネクタイを絞めていた。
「うん、似合う似合う」
「おかげで一日中首根っこを掴まれていたような感じでしたけどね」
「あー!そんな事言ってると――」
言いながら僕に抱き着き唇を重ねてきた。
「・・・おかえり」
「ただいま・・・」
「何ですか!この荷物は!」
「それでもギリギリに減らしたんだからねっ!」
寝室にあった段ボール三箱と大きなバックが二つ。
「ちょ、どこに置くつもりなんです?ほとんどが服なんでしょ?」
「ジャーン!」
と沙希ちゃんの手に握られていたのは三枚の諭吉さん。
「これで洋服ダンス買っていい?」
「あー、それって新潟の時の三万円じゃないですか!」
「えへへ、ね、良いでしょ?」
「まったく・・」
「やったー!次の休みナフコねナフコ」
「はいはい」
「お風呂入っちゃってよ。勇次くん食べたら寝ちゃうんだから」
「はいはい」
「はいは一回で――」
今度は僕から沙希ちゃんを抱きしめた。唇を重ね、彼女の舌を犯していく。
沙希ちゃんの手から三枚の諭吉さんがハラハラと床に落ちていった。
「とっても美味しかったですよ。ごちそうさま」
風呂に入り、沙希ちゃんの作ったカレーをいただいた。
「でしょでしょ?カレーだけは自信があるんだ」
「だけは、って・・」
「いいの、これから勉強してくんだからっ。――これ片付けてからお風呂入るね。寝ちゃダメだよ」
「はい――」
と言いながらも僕はソファーでゴロンと横になって、テレビのナイター中継を観ながら缶ビールの残りをチビチビと飲んでいた。
カチャカチャと鳴る食器の音が心地良くて、つい寝てしまいそうになるのを堪えていた。