【件名:ゴール裏にいます】
大分市府内町パルコ前PM6:00
僕はTシャツとジーンズというラフな格好で沙希ちゃんが来るのを待っていた。
土曜日のこの時間の街は賑やかで、お洒落に着飾った女の子達が大勢行き来を繰り返している。
僕は自転車でここまで来た。
仕事の時もバスか自転車を利用している。
市内中心部に会社があってはステーションワゴンの出番はあまり多くはない。
僕が着いて間もなく沙希ちゃんが駅前の地下道から姿を現した。
沙希ちゃんは僕を発見すると大きく手を振った。
信号を待っている間もずっと僕から目を離さずにこっちを見ている。
(何だかいつもと様子が違う)
「お待たせー!待った?」
「いえ、僕もたった今来たところでしたよ」
「そっか、時間だけはいつも正確だもんね勇次君。それ以外は鈍感だけど・・」
「ちょ、最後の方良く聞き取れなかったんですけど・・」
沙希ちゃんは「あはは」と笑うと「行こっか」と歩き出した。
「あれ?髪切りました?」
「うん気分転換にバッサリいっちゃった」
「短いのも良く似合いますよ」
「ほんとに?ありがとう」
僕は自転車を押しながら沙希ちゃんと並んで歩いた。
大分県庁の程近い場所に居酒屋『とり蔵(ぞう)』はある。
店の前に自転車を停め、先に暖簾をくぐって行った。
「いらっしゃいませー!」
今日も元気良く出迎えてくれたのは看板娘の沙織ちゃんだ。
「二人なんだけど良いですか?」
「何言ってんのいつも二人・・」
言いかけた言葉が途切れ、その視線は沙希ちゃんを見ている。
「二名さま、ご案内しまーす!」
奥から親父さんの「あいよー!」と言う声が聞こえた。
四人掛けのテーブル席に案内されおしぼりを手渡される。
「お飲み物は何にします?」
「僕は生中で。沙希ちゃん何にする?」
「ふぅん、沙希ちゃんて言うんだ」
「え?あたし?沙希です。沙悟浄の沙に希望の希で沙希です」
「え!じゃあ、私の沙と同じだ!私は南沙織の沙織です」
「ちょっと二人ともずいぶん古いですね」
僕が笑いながら言うと『うるさい』と二人同時に返された。
「で、沙希さんは何にします?」
「じゃあ、あたしも同じ物」