【件名:ゴール裏にいます】
「そうだよね、筆談だったら出来るよね!」

「沙希ちゃん、こう言う時に周りの人間がパニックになると、千尋ちゃんは益々不安になりますよ、落ち着いて」

「う、うん。分かった・・」

僕はそっと千尋ちゃんを抱き上げ、頭を撫でた。

「千尋、ごめん。千尋の言いたい事解ってあげられなくてごめん・・。写真気に入った?だったら持ってていいからね」

背中をポンポンと叩くようにすると千尋ちゃんの身体からスッと力が抜けるのを感じた。

『ゆうじ・・あたしこそごめんね』

千尋ちゃんの声が聞こえたような気がした――。



「寝ちゃった・・の?」

「みたいですね。ベットに寝かせるから手伝って下さい」

手帳とサインペンを持ったままの沙希ちゃんと二人で千尋ちゃんをベットに下ろした。千尋ちゃんの手にはしっかりと母親の写真が握られたままだ。

(お母さん、あなたは何か知ってますか?)





「コーヒー煎れよっか?」

「はい、いただきます」

千尋ちゃんを寝かせ付けた後で僕らはリビングに移動した。テレビを観るでも無く、黙ったままの空気。堪(たま)らず沙希ちゃんが立ち上がってキッチンに行き、お湯を沸かし出した。

「かわいそうだね・・」

「千尋ちゃんがですか?」

「ううん。千尋ちゃんのお母さん・・」

「原田社長・・?」

「うん。だって今みたいな事が日常茶飯事ある訳でしょ?きっと悔しい思いをしてるんじゃないかなぁ。歯がゆい思い・・」

「そうですね・・」

「あたしだって、さっきは歯がゆかったもん。お母さんならもっとだよ」

「沙希ちゃん・・やめましょう」

僕は寝室の方を気にして言った。

「そうだね、ごめん・・」



沙希ちゃんは新潟で買ったペアのカップにコーヒーを注ぎ、テーブルへと運んできた。

「だけど千尋ちゃんってホントに可愛いよねぇ。あたしも赤ちゃん欲しくなったなぁ」

その言葉に口に含んだコーヒーを吹き出した。

「ゴホッ、ゴホッ・・」

「あーあ、ホラホラ・・」

「ちょ、いくら何でもまだ早過ぎるでしょ?まだ自分が子供じゃないですか」

「そ、そんな事ないもん・・」

ムッとした顔も可愛い沙希ちゃんだった。

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