【件名:ゴール裏にいます】
「トリニータって今3位ですよね?」
部屋の電灯を消して、沙希ちゃんの頭を左肩に乗せながら話しを続けた。
ベットでトリニータの話しをするなんて初めての事なんじゃないかな?
でも、こんなのもたまには良い。
「うん。今シーズンは一度も首位になってないからね。今度のサンガ戦はチャンスだよ」
「2位までが昇格ですよね?・・J1かぁ・・」
「勇次くん、J1のチームとやるんならどことの試合が観たい?」
「うーん・・どこも観たいけど、一番は浦和レッズですね。あそこのサポーターは異常な程熱いですよね?埼玉スタジアムには行きたいです」
「レッズなら去年はJ2だったんだよ?あたしは市陸で二回とも観たけど?」
「それはちょっとうらやましいです」
「勇次くん・・」
「何ですか?」
「固くなってるよ?」
「そりゃあ、沙希ちゃんが隣で寝てるからですよ・・」
「あたしが隣で寝てるだけでこんなになっちゃうんだ・・」
「ま、まあ。――ているから・・」
「え?聞こえ無かった、何て?」
「だ・か・らぁ、愛しているからですよ。さあ、もう寝ますよ、明日早いんです」
彼女がクスッと笑った。
「あたしも勇次くんの事愛してるよ?だーい好き!」
明け方僕は腕の痺(しび)れで目が醒めた。沙希ちゃんは僕にしがみつくようにして寝ている。
彼女を起こさないように左腕を頭の下から抜き、一人ベットに腰掛けた。
しばらくの間はジンジンする腕の痺れを楽しむ。
僕は彼女の丸ごとに痺れていた――。
「じゃあ、行ってきますね」
「うん、気をつけてね。いってらっしゃい」
アパートを午前6時半に出た。時間的には余裕があり過ぎるが、10号線の渋滞にハマりたく無かったし、何より僕が彼女らより後になる事だけは避けたかったから。
あの三人はプロに間違いない。僕が初日からだらしの無い事じゃ足元をすくわれる。
やっとの思いで取った初めての現場を僕はどうしても守りたかったのかも知れない。
(よし!行こう!)
ステーションワゴンのアクセルをゆっくり踏み込み、ハンドルをギュっと握った。
窓を開け、朝の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。