【件名:ゴール裏にいます】

木曜日の早朝。
10号線はかなり空いていた。米良の有料道路の150円が勿体なく感じた。

白滝橋を野津方面に10分程走ると右手の農地に平屋のプレハブが5棟並んで見える。
周りにはかなりの台数が停められる駐車場として整備されていた。

(あそこだな・・)

ステーションワゴンのウインカーを早目に出し、僕は工場への入口を探した。
しかし、行けども行けども車の通れるような道は無く、ちょっとしたパニック状態に陥った。

気を取り直し、しばらく真っ直ぐに走ると左手にコンビニが見えた。僕はコンビニの駐車場に車を入れ、道を尋ねてみようと思った。

(コーヒーと煙草くらいは買うけどね)

車を降り、コンビニから出て来た男性と目が合う。

「主任!あ、おはようございます。今日はわざわざすいません。朝食ですか?」

「勇次くん!どうしたの、やけに早いじゃない?」

「遅刻しないようにと早目に出たのは良いんですが、工場への入口が見つからなくて道を尋ねにコンビニまで来ちゃいました」

「そうか、渡した地図にはちゃんとルートを示していたんだけど、地図持ってる?」

「あ、いや、それが・・」

「しっかりしてよ〜。でもここで会えて良かったよ。僕の後に着いて来たら良いから」

「すいません!よろしくお願いします!」





主任の先導のおかげで何とか工場へとたどり着けた。僕と主任は一番小さなプレハブへと入り、朝の雑談を始めた。

「勇次くん、どう?忙しいの?」

「いやぁ、暇ですね。とは言っても僕だけ暇なんですけど」

「『H・O・S』自体は忙しいの?」

「はい。そりゃあもう。僕も何か手伝いたいんですけど、反(かえ)って邪魔だからって、手伝わせて貰えなくてヘコんでます」

「そう。原田社長はやり手だからねぇ・・」

「主任は原田社長の事をご存知なんですか?」

「それはねぇ。有名人だからね、あの方は」

「那比嘉グループの会長の娘だって事でですか?」

「それもあるけど、那比嘉グループを敵に回して良くやってるって事の方が大きいんじゃないかな?なにしろ那比嘉グループって言えばこの大分の政界、財界を牛耳ってるって話しだからね」

「那比嘉道三って怖い人なんでしょうか?」

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