【件名:ゴール裏にいます】

その時、握りしめた携帯が震えだした。タクシーの後部座席で沙希ちゃんと目が合う。
着信したメールの差出人は彼女の携帯からだった。

ゴクリと唾を呑み込み、折りたたみ式の携帯をそっと開く。
ディスプレイの光が暗闇のタクシーの中に浮かび上がる。



【件名:愛してますか?】
あなたは彼女を愛してますか?
家族を愛してますか?
サッカーを愛してますか?
――でも、私の事は愛してくれないのね――



「千尋ちゃん・・じゃないみたいね・・」

「どうやら携帯は見つかってしまったみたいです・・」

「どうすんのよ・・」

「で、電話してみましょう」


震える指先で、着信履歴の彼女の番号を呼び出した。

そして通話ボタンを押した。



コールが一回。出ない。
コールが二回。出ない。
コールが三回。出ない。
コールが四回。出ない。

そして五回目のコールの途中で電話が繋がった。



「もしもし?勇次です。那比嘉さんですよね?」

「・・・」

「千尋ちゃんは無事ですか?」

「・・・」

「何故こんな事をしたんですか」

「・・・この子、何にも喋らないのね・・」

「那比嘉さん!千尋ちゃんは無事なんですよね?!今どこですか?早く返して下さい!」

「あなた、この子がそんなに大事?」

「ええ、大切です。僕の命よりも大事です。だから――」

「子供は返すわ。ただし、あなたとあなたの彼女と一緒に来なさい。他の誰にも言ってはダメ。必ず二人だけで来る事が条件よ」

「分かりました。それでどこに行けば良いんですか?」

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