【件名:ゴール裏にいます】
僕が浴室から出て来ると、リビングは綺麗に片付けられ電灯は落とされていた。
ほのかな明かりを頼りに冷蔵庫までたどり着き中から缶ビールを一本取り出してプルタブを引く。
プシュと言う音と共にビールの泡が飲み口から溢れてきた。
一気に半分位飲み、缶ビールを持ったまま寝室に入って行った。
枕元の電気スタンドの灯かりの中で沙希ちゃんは寝ていた。
ベットサイドに腰掛けて母親の写真を手に持つ。
(お母さん・・本当の僕は誰なんですか?)
そう問い掛けても写真の中の母親は答えてはくれない。ただ綺麗な笑顔で僕を見ているだけだった。
「勇次くん・・」
不意にTシャツの袖口を掴まれクイクイっと引っ張られた。
「起きてたんですか?」
「うん。目を閉じるとね、千尋ちゃんの顔が浮かんでくるの。やっぱり心配・・怯えてないかな、千尋ちゃん・・」
「大丈夫ですよ。あの子は頭の良い子ですから、自分に不利になるような行動はしません。それを信じて今日は眠りましょう」
「うん・・あのね、終わったよアレ・・だから――」
彼女が言い終わらないうちに僕は彼女を抱きしめた。そして唇を重ねていく。
彼女の両手が僕の背中に回り、久しぶりの愛の交歓が始まった。