【件名:ゴール裏にいます】
「勇次くん!起きて!携帯鳴ってる!」
久しぶりに彼女の身体に二回程果て、深い闇の中をさ迷っていた僕を彼女は容赦無く叩き起こす。
「・・今何時です?」
「もう8時だよ!ゆっくり寝ている場合じゃ無いんだからねっ!」
尚も携帯は鳴り続ける。
着信番号には見慣れない数字が並んでいた。
「はい・・もしもし・・」
「いやあ、朝早くからすいませんですな。実は捜索中に女の子の物と見られる靴を発見しましてな。できれば確認をお願いしたいと思いまして」
電話を掛けてきた相手は夕べの刑事だった。
外からはヘリコプターのプロペラ音が聞こえている。
(捜索しているんだ・・)
「分かりました。すぐに伺います。それでどこに――」
手早く着替え、アパートから飛び出した。まさかとは思うが確認しない事には始まらない。
全力で大分川の土手を走り、刑事の指定した場所へと向かった。
大分川の川辺や水上では大勢の捜索隊が駆り出され、千尋ちゃんの捜索をしている。
僕は申し訳無い気持ちでいっぱいだったが、今、本当の事を言う訳にはいかなかった。
刑事の指定した市陸前の土手の上には結樹さんの姿もあった。
走って近付く僕に結樹さんがいち早く駆け寄って来る。
「勇次!良いか、落ち着けよ。まだそうと決まった訳じゃ――」
僕は結樹さんの言葉を振り切り、刑事の待つ場所まで走った。
「いやあご足労をかけまして。これなんですが・・」
刑事の持つビニール袋に入った片方だけの靴を凝視したが、千尋ちゃんの物では無かった。
「ち、違います。同じキャラクターですが、千尋ちゃんの靴はセーラーマーキュリーです。こ、これはセーラームーン・・」
息を切らせてそれだけ言い、僕はその場にペタリと座り込んだ。
「勇次・・大丈夫か?」
結樹さんが僕の肩に手を掛けて言う。
「はい・・ありがとうございます、結樹さん」
「きっと無事に見つかるよ!」
「そう信じてますよ、僕も」