【件名:ゴール裏にいます】
【件名:ゴール裏にいます】後編
タクシーに乗り、帝洋ホテルのエントランスに着いてまず驚いた。
『歓迎!那比嘉グループご一同様:鳳凰の間』
ロビーの入口に大きな幕が貼ってありホテルのロビーには人が溢れている。
(那比嘉道三の差し金だったのか・・)
そんな事を考えていた時に不意に声が掛かる。
「やっと現れたわね!遅かったじゃない!」
黒いドレスに身を包んだ原田社長、いや姉さんが腰に手を当てて僕らを出迎えた。
「え?だってまだ30分も前ですよ?遅かったは無いでしょ?姉・・さん・・」
「勇次・・今何て・・とか、言ってる場合じゃないのよ!臼村さん!ちょっと一緒に来て!」
姉さんはそう言うと、沙希ちゃんの腕をムンズと掴み、どこかへ引っ張って行ってしまった。
僕がア然としてそれを見ていると、
「ゆうじ!」
と、小さな影が駆け寄って来る。
「千尋ちゃん!病院行きました?なんとも無かったですか?」
「うん!だいじょぶだったよ。ゆうじはだいじょぶ?」
「はい。僕は大丈夫ですよ。沙希ちゃんもね」
「よかった・・それからありがと・・」
「ありがと、は僕の方ですよ。千尋ちゃんと話が出来てとても嬉しいですよ」
「ちゃんづけはやめて、こどもみたいにゆわないで」
「はいはい・・」
僕はこの小さなレディーとお喋りが出来てとても幸せだった。
「そろそろ上がりましょう。きっとみなさんがヒーローのお出ましを待ってますよ」
見ると、野良さんや『H・O・S』のみんなが側に立っていた。
「野良さん、ヒーローって僕の事ですか?やめてくださいよ、ヒーローだなんて」
「あら?ヒーローは遅れて来るって昔からの言い伝えでしょ?」
「綾蓮さん・・それに樫本さんに田中さん・・いろいろと心配かけて申し訳無かったです。ごめんなさい。ありがとうございました」
「そんな堅苦しい話は良いっす!俺はお腹がペコペコですから・・」
「樫本!がっついて『H・O・S』の評判落とすんじゃ無いわよ!」
「うすっ!」
ひとしきり笑った後で野良さんが言った。
「さあ、ヒロインもお待ちかねです。行きましょう」
「ヒロインて・・」
「さきおねえちゃんだよ、ゆうじ」