【件名:ゴール裏にいます】

会場の入口の扉が二人の紳士の手によって静かに開けられた。

一斉に巻き起こる拍手の雨、雨、雨。

僕と沙希ちゃんは俯(うつむ)いたまま、紳士に誘導され前に進んで歩いた。

(ちょっと、何なのよ・・)

(わかりませんよ・・)

二人で声を秘(ひそ)めて話した。



「みなさん!ヒーロー、ヒロインの入場です!今一度盛大な拍手を!」

檀上の下まで歩き、振り向かされ、司会者らしき人の声がマイクから流れると、より一層に大きな拍手が巻き起こった。

「あ、どうも、どうも・・」

僕は訳が分からない気持ちを、愛想笑いでごまかそうとした。

隣にいる沙希ちゃんも引き攣(つ)った笑顔で拍手に応えていた。



「えー、それではこの祝賀会の主催者でもあらされる那比嘉道三氏よりお二人にお祝いのお言葉をちょうだい致します。那比嘉会長よろしくお願いします」

僕らは振り返り、一段高い場所に立った那比嘉道三を見上げた。



「勇次!臼村さん!おめでとう。いや、ありがとう。二人は僕の思った通りの働きをしてくれて、見事に孫の千尋の言葉を取り戻してくれた。今日はそのお祝いにこの席を設けた。心ゆくまで楽しんでくれたまえ」

(沙希ちゃん、今あの人、僕の思った通りにって言いませんでした?)

(言ったね・・何か違和感を感じた・・)

(そうですよね・・)

尚も那比嘉道三のスピーチは続いている。



「あ、あの!」

「うん?どうした勇次。お前のスピーチの時間は後で取ってあるが?」

「いや、そうでは無くて。さっき、僕の思った通りって言いましたよね?」

「ああ、言ったが?」

「それについて説明をしていただけないかと・・」

「うん?説明がいるか?」

「はい、是非」

「それじゃあ、説明しようか・・」

那比嘉道三はスピーチを打ち切り、僕の求める説明を始めた。




それは驚愕の事実だった―――。

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