【件名:ゴール裏にいます】
【件名:お久しぶりです】
ちょっとご無沙汰してます。沙希です。
この前の返事まだなんですがどうでしょう?
それからまたご飯誘って下さい。
『この前の返事』とは「一緒にサッカー観戦に行きません?」と誘われていた事だ。
この沙希ちゃんは地元大分のプロサッカーチーム大分トリニータのサポーターである。
2001年の今年、大分トリニータはJ2と言うカテゴリーに所属し、上のカテゴリーであるJ1を目指していた。
沙希ちゃんとは同じ携帯電話同士での掲示板で知り合った。
何の気無しに書いたプロフィールの趣味の項目に惹かれたようだ。
『趣味:スポーツ観戦』
ここで言う僕のスポーツ観戦とは、イコール野球の事だった。
同じ九州のホークスを応援し福岡ドームにも何度も足を運んでいたし、高校野球の地方予選も一回戦から応援すべく駆け付けていた。
僕自身、小学生から野球を始め、高校時代はピッチャーとして甲子園を目指していた典型的な高校球児だった。
高校三年の春に身体を壊すまでは・・・。
病名は座骨神経痛椎間板ヘルニア。
診断の結果『要手術』とされ、術後約一ヶ月を病院のベッドで過ごし、リハビリに半年を費やした揚げ句に野球を続ける事を断念した。
「そんな奴は世の中に腐る程いる。なぁに人生が終わった訳じゃあない」
当時野球部の顧問はそう言って慰めてくれた。
それからと言うものの僕のスポーツは観戦し、応援する側に廻った。
そんな僕をサッカーに誘う沙希ちゃん。
僕はなんやかんやと言い訳をしてサッカー観戦に行くのを渋っていた。
サッカーなんてなかなか点の入らないスポーツは面白く無いんじゃないか、と勝手なイメージを持っていたから。
でもいつまでもそんな事では沙希ちゃんに対して失礼だろうとも考えるようにはなっていた。
はっきり言って沙希ちゃんは可愛かったし、僕のタイプだった。
できる事ならこのままの関係を続けて行きたい。いやそれ以上の関係にも発展したいと思っていた。
彼女いない歴23年。年齢と同じ年月をこの辺で終わりにしたかった。
よこしまな考えながら、僕は『この前の返事』をメールする事にした。