【件名:ゴール裏にいます】
「勇次、そろそろ次行くか?」
権田先輩はちょっと下品な笑みを浮かべそう言った。
「僕、今日はちょっと。明日西大分の現場に顔出さなくっちゃいけないんですよ」
「何だ?例の女子の件か?あいつにも困ったもんだよなぁ」
『例の女子』とは、僕の担当する派遣社員の女の人の事であり、派遣先でトラブってしまい、土曜日の明日僕は現場に出向く事になっている。
「そう言う事なんで僕は帰ります」
「いやいやいや、そうは行きませんよっと。1時間、いや45分だけで良いから付き合えよ」
「45分ってまたあのエッチなお店に行くんですか?」
「まあそう言う事だ。なっ、一人だと入り難いんだよ。なっ」
「そんなにあの『ここあ』って女の子がお気に入りなんですか?」
権田先輩は返事の代わりに再び下品な笑みを顔に浮かべた。
「なになに?権田さんってそんなにエッチな人だったんだぁ。ふーん」
僕らの話し声が聞こえていたのか、沙織ちゃんが口を挟んできた。
「ばっか、違ぇよ。男ってもんの標準装備程度のエッチだよ。なぁ!」
権田先輩は少し酔っているのか口調が乱暴になっている。
「どうだか・・?」
苦手な話題を振られた僕は笑いながらそう答えるだけにしておいた。
「沙織ちゃん、お勘定お願い」
権田先輩は一変して甘ったるい口調でおあいそを沙織ちゃんに頼みレジへと向かった。
一軒目は割り勘。
これはどちらかともなく決められたルールみたいなものだった。
僕は勘定の半額をきっちりと先輩に渡すと先に店を出た。
続いて先輩が出てくると、お見送りに沙織ちゃんが着いてくる。
「いってらっしゃいっ」
沙織ちゃんは権田先輩の背中を両手で押し、片手でバイバイをする。
「ごちそうさまでした」
僕は振り返り言うと、沙織ちゃんは先輩の背中に『アッカンベ』をしているところだった。
どんどん先を歩いてゆく先輩に追い付く。
「先輩、沙織ちゃん、先輩に気があるんじゃないですか?」
「ばっか、あの娘はそんなんじゃねーんだよ・・」
権田先輩の含みのある言葉に、僕はそれ以上聞く事は出来なかった。