【件名:ゴール裏にいます】
僕は洗濯したてのTシャツとジーンズを身につけ沙希ちゃんがお風呂から出て来るのを待った。
洗面所からドライヤーの音が聞こえる。
やがて洗面所から沙希ちゃんが出てきた。
彼女も昨日着ていた服を身につけていた。
寝室に姿を現した沙希ちゃんにベッドに座るよう促した。
「なによ・・」
「沙希ちゃん、あの写真見たんでしょ?あれはね僕の母親の写真です」
沙希ちゃんの顔が一瞬驚いたようになる。
「だって、あんなに若くて綺麗な人が・・お母さん?」
「そうですよ。あの写真は母親が30歳の記念にスタジオで撮影したものなんです。僕の覚えてる母親は化粧っ気無しのやたら口やかましい人ですけどね」
「覚えて・・るって・・」
「3年前に亡くなったんです。まだ40歳だったのに」
「ごめんなさい、あたし知らなくて・・写真裏返しちゃった・・」
「良いんですよ。言わなかった僕も悪かったんですから。気にしないで下さい」
「あたし、てっきり・・」
そう言うと沙希ちゃんは母親の写真の前に行き「ごめんなさい」と言った後に手を合わせていた。
振り返り、僕に抱き着いて来る。
「やっぱり、だぁい好き!」
彼女の髪の匂いが鼻孔をくすぐった。
「ご飯食べに行きましょう。お腹ペコペコです」
「あたしもお腹すいたぁ」
僕らは近所のラーメン屋さんで食事をとり、その足で沙希ちゃんの家までステーションワゴンを走らせた。
日曜の夕方の10号線は車の流れが悪く彼女の家まで1時間近くを要した。
だけど離れるのを名残惜しむ二人にとって渋滞も気になるものでは無かった。
沙希ちゃんの自宅前で彼女を降ろす。
「今度来た時は寄って行って。お母さんも喜ぶと思うから」
僕は「必ず」と返事をし、来た道を引き返すべく車を発進させた。
もうすぐ日が暮れようとしていた夏の終わり。
アパートに向けてステーションワゴンを走らせている時に携帯の着信音が鳴った。
信号待ちの時にメールを確認する。
【件名:だぁい好き】
勇次君!大好きだよ!
(ハートがいっぱい)
次の日の月曜の朝、会社に出勤した僕に驚ろくべき事が待っていた。